「マッドマックス」再上映に6000万円のスピーカー導入 狂気に満ちた担当者に話を聞いた

    「値段は後から聞いてビックリしました」

    東京都立川市にある映画館「シネマシティ」が実施する"ある企画"がネット上で話題になっています。

    公開から高い人気を得ている「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(以下、マッドマックス)。それをなんと6000万円超えのスピーカーを導入し、再上映するのです。

    BuzzFeedは、同館の企画担当者に話を聞きました。

    ーーまず、6000万円超えのスピーカーを導入した経緯は?

    昨年6月に同作を上映した際、「今作のマッドにマッドで応えるため」と称し、より体感的な鑑賞を目指して重低音を専門に出すスピーカーを導入しました。

    これはスタジアムやアリーナクラスの会場で使用されるもので、音響の専門家に綿密な調整を依頼し、「極上爆音上映」を開催しました。

    大音量ながら、きちんとバランスを取ることで「やかましい」と感じない上映スタイルで行った取り組みは、日本全国からファンの方に足を運んでいただけるほど評判になりました。

    ーー確かにその際も、ネット上で話題になりましたね。

    はい。それで大きな成功を得られたのは大変ありがたかったのですが、「次はどうやって映画ファンを熱狂させようか」と。この成功を越えるだけの「何か」をどうやって作りだしたらいいのかと考えました。

    感動というのは、驚きから生まれます。思っていたよりずっと大きなものが出てきたり、思っていたよりもずっと高いところから飛び降りたり、思っていたよりもずっと悲しかったり優しかったりするとき、心は動きます。大きな成功を収めていて、もう一度それを行うだけでも十分うまくいくはずですが、それでは「感動」を呼び起こすことまではできません。

    そこで、音響家の方と相談し、「ならばラインアレイスピーカーというものがある」と聞いたのです。音楽ライブに行かれる方なら必ず見たことがあると思いますが、それがどういう名前なのか、どういう機能なのか、というのはほとんど知られていないと思います。

    この「見たことはあるけれど知らない」ということがイケる、と思った理由です。人はまったく知らないものより、見たことはあるものの知られざる側面を知ったときのほうがインパクトを強く受けますから。

    ずらりスピーカーが並ぶ"いかつさ"と、知られざる機能。この2つがファンに強力な「魔法」を掛けてくれるだろうと確信しました。これなら戦えると。

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    今回導入される「ラインアレイスピーカー」とは、小型のスピーカーを縦に数台並べ、たがいの干渉を調整することにより、音の上下への拡がりが少なく、その分、まっすぐ遠くまで音が飛ぶようになる。大きな音を出さなくても、細かい音まで会場の隅々まで届かせられるという。

    同館が導入するのは、Meyer Sound社のLEOPARDというスピーカーで、非常に高い性能を持つとされている。

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    ーーしかし、6000万円超えのスピーカーを導入するとは……。社内から反対の声などは?

    弊社は小さな会社ですので、複雑な手続きはありません。今回も企画担当の私が、音響家の方と話を進めて、ちょっとした企画書を書いて直接社長に渡す、という流れでした。

    私は知らなかったのですが、シネマ・ツー(同館が持つ劇場)をオープンする時に、すでにラインアレイを検討していた経緯があったようで、社長もやりたかったことのようです。わりとすぐに「やろう」ということになりましたよ。

    ただ、その後「どの機種にするか」「補強工事をどうするか」ということに関しては、かなり難航しましたね。

    ーーそれにしても「マッドマックス」にかける思いがすごいですね……。

    「マッドマックス」は台詞で語り合うドラマ部分が少なく、映画の原点とも言えるアクションの連鎖で物語が進んでいきます。ディテールが作り込まれていて、実は大変知的な作品でもあるのですが、見ている間は思考を要求しません。迫力の映像に身を任せられます。

    つまり、これは音楽ライブの体感に近いのです。ミュージカルと言ってもいいかもしれません。プリミティブなドラムの音が鳴り響く中、爆発と激突と絶叫が奏でるミュージカルなのです。

    このことが今回の「極上爆音上映」という、音によって体感や没入感を高める上映スタイルにぴったりハマった理由だと思います。上映当時、見た回数を「V8! V12!」などと言ってリピートするファンが続出したのは、これは音楽に近いからです。男性より女性客が多かったのは、これはミュージカルだからだと思います。

    ラインアレイスピーカーの導入で、より繊細に、より細部まで作品を描き出すことができるようになったので、あの「世紀末世界」へよりディープにダイブしてください。期待は裏切りません

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    そう、狂気はまだ振り切っていなかったのだ。