なぜ今iPhoneで?「スーパーマリオ ラン」のことを、宮本茂さんに聞いた

    スマホデビュー直前の心境は

    任天堂は来週、iPhoneとiPad用の「スーパーマリオ ラン」をリリースする予定だ。スマートデバイス上で「スーパーマリオ」がプレーできるようになるのは、マリオの35年の歴史の中で、初めてだ。これは、どれくらい変わったことなのだろうか。その感覚を掴むために、たとえ話をしてみよう。

    想像してみてほしい。ディズニー製の特別なテレビがあったとしよう。そのテレビでは、ディズニー映画しか見ることができない……としたら?

    ディズニーのキャラクターを観ようとするたびに、他のすべての番組を観るのにつけているテレビを消し、ディズニー専用のTVをつけるのは普通のことだろうか?しかも、この普通のテレビとあまり値段の変わらないテレビは、4、5年ごとに交換する必要がある。

    そんなテレビを誰が購入し続けるだろう?確かに、そのテレビで番組を観たがる人はいるだろう。でも、ディズニー映画は好きだけれど、そんなにお金は持っていない。そんな平均的な消費者は、どうだろう?

    任天堂は、常に「ディズニー専用TV」のような自社ハードウェアを使ってもらうことを前提に、ゲームソフトを販売してきた。事実、史上最も愛されるゲームシリーズとも言える「スーパーマリオブラザーズ」は、任天堂のデバイス以外ではプレイすることができなかった。

    この状況がついに変化する時が来た。クリスマスを前にして、「スーパーマリオ ラン」が、何百万ものiOSデバイスに向けてリリースされるからだ。

    BuzzFeed Newsは12月6日、任天堂で「クリエイティブフェロー」という控えめな肩書きを持つ宮本茂さんに、「スーパーマリオ ラン」について聞いた。 64歳の宮本さんは、妖精のような髪型と悪戯っ子のような笑顔で現れた。記者がゲームについての概要説明を受けている間、宮本さんは、とりとめもなくアコースティックギターを演奏しながら、時間を潰していた。

    さて、マリオの産みの親は、ゲーム界で最も有名なキャラクターのスマホデビュー直前に、どのようなことを感じているのだろうか?

    「オリンピックの閉会式に使ってもらったりして、世界中の人がまだマリオが日本から出たキャラクターだってことを、知らないということがことが分かって。久しぶりにマリオと接した人も多いようです。スマートフォンは世界中での数はすごいですし、届いていない地域の人にも届くので、すごくワクワクしています」

    任天堂は「携帯端末でマリオをプレーできるようにして欲しい」というユーザーからの声を、ずいぶん長い間、聞いてきた。

    「スマートフォンが出る前の、携帯電話のころから、ゲームはこれ(携帯端末)で動くのでは、と言われてきた。けれど、ゲームプレイとしては十分な手応えがなかったんですね。ここ2、3年のレベルになって、やっと、ゲーム専用機でなくてもそこそこのレベルが作れるようになったという手応えを感じてきました」

    「スーパーマリオ ラン」で、宮本さんはようやく、ユーザーに提供したいと思っていた経験を提供できる環境が整えられたと感じている。「スーパーマリオ ラン」は一見、私たちがよく知っているスーパーマリオの洗練されたバージョンのように見える。しかし、大きな違いがある。マリオはユーザーの助けを借りずに走る。操作は一種類だけ。タップするとジャンプする。長押しすると、さらに高くジャンプする。

    ボタンを押さなくてもキャラクターが動くプラットフォームゲームは、少なくとも2010年以降、携帯端末で人気を博してきた。キャラクターがどこかに入り込んだり、どこかに走り去ったりした時のみ、プレイが終わる「エンドレスランナー」と言われるサブジャンルもこの一部だ。

    宮本さんはBuzzFeed Newsに、任天堂はWii全盛期にすでにアイデアを考え始めていた、と語った。 「その頃から、いっそのことジャンプだけさせて、マリオは勝手に走ったらどうか、というアイデアもあって、そういう実験もしていた」という。

    これらの実験は、現段階ではゲームになっていないが、マリオを知らない人たち向けに作られた「New スーパーマリオブラザーズ」シリーズを開発していくうちに、アイデアは変化していった。

    スーパーマリオランのインスピレーションのは、「スーパープレーヤー」から来ているという。宮本さんによると、「オリジナルのスーパーマリオのスーパープレイヤーのプレーを見ると、全員止まっていない」のだそうだ。

    任天堂の社員たちは、スーパープレイヤーの驚異的なスピードランとゲームスキルを動画で研究した。そして、スーパープレイヤーたちは十字キーから決して手を離さないことに気がついた。

    マリオは走り続け、ジャンプの精度は信じられないほど上がっていく。それを見て、任天堂の社員たちは考えた。もし、すべてのプレイヤーが、スーパープレイヤーと同じような経験をすることができたとしたら、どうだろう?

    任天堂は、マリオを何年もプレイしていない人たちにも、初めてマリオに接する人たちにも「スーパーマリオ ラン」をプレイしてもらうことを望んでいる。スーパーマリオランがが成功すれば、任天堂は今年の2回目の携帯ゲームでの勝利を飾ることができる。

    夏の「ポケモンGO」の流行は、任天堂の株価をここ数年の中で最高に上昇させた。そして宮本さんが9月にAppleのイベントでティム・クックとともに「スーパーマリオラン」を発表した後、2度目の上昇を経験した。

    「スーパーマリオ ラン」と「ポケモンGO」。この二つのゲームの登場は、任天堂が自社端末から他の携帯端末上に、自社のキャラクターを連れて出るとを決めたことを示している。

    宮本さんは3DSモバイル・システム搭載の自社ハードウェアで、「ポケモンGO」タイプのゲームをプレイできないか考えていたと、BuzzFeed Newsに教えてくれた。結果的には、すでにGPSを搭載している何百万もの携帯端末に、ゲームを組み込む方が合理的だと判断したという。

    Wii Uの売り上げをが伸びず、Nintendo Switchの3月リリースを控える任天堂。ハードウェアの会社としての任天堂も、キャラクターを通じてファンになってくれる若い世代のユーザーの獲得の重要性に、気づいているのかもしれない。

    宮本さんはこう語る。「子供たちが初めて触れる機械が、任天堂のハードだった時代から、だんだんとそれが、お父さんのおさがりのスマホ、iPadという風に、時代は変わってきている」

    この記事は英語から翻訳編集されました。