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「WELQの方がマシだった?」と専門家 ネットの医療情報は今、どうなっているのか

「今もまだ、大きな問題が残り続けている」と専門家。

一部上場企業DeNAが運営する医療情報サイト「WELQ」が不確かな医療情報を大量生産し、サイト閉鎖に追い込まれた。2016年11月末のことだ。

しかし、低品質な医療情報は今もネットに大量に、しかも目立つ形で残り続けていることが、専門家の分析で明らかになった。

DeNAはGoogleから集客するため、膨大な検索語リストを作り、検索結果で上位表示されるテクニックを駆使した。いわゆる検索エンジン最適化(SEO)だ。

それによって検索結果で、大学や公的機関が発信する情報よりも上位に表示され、多くの人に閲覧されていた。あれから半年、検索結果は今、どうなっているのだろうか。

「WELQが出ていた方がまだマシだったのでは?」

そう指摘するのは、検索エンジンの専門家で、早くからWELQの問題点を指摘していた辻正浩氏だ。同氏はブログでこの半年間の検索結果の推移を公表した

辻氏はBuzzFeed Newsの取材に「Googleは検索アルゴリズムの改善などの対応策は打ったものの、未だに信頼性の担保されない、記事を大量生産するサイトの上位表示が続いている」と話した。

一方、比較的信頼性が高いはずの大学や公的機関のサイトは、この半年で順位が下がっているという。

データから浮かび上がるのは「WELQのようなSEO手法」が未だに有効であることだ。

辻氏が分析したのは、“お腹が痛い”“だるい”などの「健康関連の悩み」488キーワードと“胃がん”“白血病”などの「病名」399キーワードだ。

「NAVERまとめ」など読者投稿型サイトと辞書サイトを除くと、「健康関連の悩み」「病名」のどちらでも、「スキンケア大学(健康・医療情報部門は“ヘルスケア大学”と呼称)」が検索上位につけている。

辻氏によれば、このサイトはWELQと同じように、網羅的な内容の記事を短期間で大量に用意し、SEOをしているという。

WELQの問題で明らかになったように、健康・医療情報を大量生産しつつ、信頼性を担保するのは難しい。ヘルスケア大学についても、その内容の信頼性の低さや運営体制の不備を指摘する声が上がり、5月8日付で、運営のリッチメディアが不正確な情報を掲載したことを認めている

「WELQと同じ手法なのに上位表示」「(大学や政府機関など)信頼性が比較的高いサイトの順位が落ちる」のはなぜ?

その理由は皮肉にも、検索エンジンが、ユーザーの要望を反映しているからだ。

Googleは4月に、公式の場で「ユーザーの行動が検索結果に反映される」ことを認めた。記事に何が書かれているかだけではなく、ユーザーがサイトを訪れ、どれくらい時間をかけて読んだかなどの指標を検索結果を決める一因とする。

例えば、違法に動画を配信するサイトをユーザーが熱心に閲覧すると、検索エンジンは、このサイトのユーザー満足度が高いと判断。検索順位が上がる。違法なサイトであるにも関わらず、だ。

逆に、どれだけ信頼性が高くても、閲覧しにくい作りであれば、掲載順位は落ちてしまう。

検索エンジンがユーザーのためを思って、ユーザー行動を指標としたことがかえって、望ましくないサイトの検索順位を上げるという現状がある。

違法サイトであれば検索エンジンに通報し、検索結果から消してもらえばよいが、不確かな医療情報といった「違法ではないが有害」な情報は対策が難しい。

例えば、「がん治療は、代替医療が世界の主流」という名前のサイトがある。この半年、がんに関する検索で、じわじわと順位を伸ばしている。

5/21現在「大腸癌 末期」「胃がん 末期」「乳がん 末期」などの検索で1位を維持しており、辻氏によれば「“末期”“ステージ4”などを含んだ検索や、癌の病名で上位表示されるようにSEOを施されている」という。

このサイトでは末期がんの代替医療として、ある特定の漢方薬をすすめ、複数の「末期がんが治った」事例を紹介。このサイトには価格が表示されていないが、インターネット上では同一商品1カ月分が15万〜20万円で販売されていた。

果たして、このサイトが言うように「がん治療は、代替医療が世界の主流」「手術・放射線治療・抗がん剤は時代遅れ」は事実なのか。

がん治療と漢方に詳しい芝大門いまづクリニック院長の今津嘉宏(いまづ よしひろ)医師はこの表現について、「事実と大きく異なる」と明言する。

また、このサイトが当該の漢方薬の医学的根拠として大きく取り上げている中国での研究結果を「鵜呑みにすることは大きな問題があり」、このサイトに「日本では医学的な妥当性はない」という。

情報の信頼性を重視するサイトであれば、「末期がんが治る」などと断言することはない。しかし、末期のがん患者にとって、知りたいのは「治る」とはっきり言ってくれる情報だ。

結果として、このような信頼性の低いサイトでも、ユーザーが探して熱心に閲覧し、上位に表示されてしまう。

WELQは閉鎖された。しかし、代わりに表示されているのは「末期がんにも効くと謳う高価な漢方を販売するサイト」だ。

これが、辻氏が「もしかするとWELQが出ていた方がまだマシだったのでは?」と指摘する真意だ。

では、どうすればよいのか。

「信頼できるサイト以外の順位を上げない」ことしか対策はないように思われる。そうすると、今度は「信頼性を誰がどのように評価するのか」という問題が残る。

健康・医療情報に関しては、大学や政府機関など、公的なサイトしか上位に表示されないようにしたら?

この場合、「小樽 耳鼻科」や「6カ月 赤ちゃん 吐いた 38℃」などの検索結果で、適切な行動を促す情報は探せなくなると辻氏は指摘する。このような調整は過去に例があるが、元に戻された経緯もあるという。

つまり、Googleは次のようなジレンマと戦っている。

信頼性を重視しすぎると有益な情報が探せなくなり、ユーザーの要望を重視しすぎると健康被害をもたらす情報がでてしまう。

辻氏はこう話す。

「Googleも無策だったわけではありません。しかし、健康・医療情報の検索結果は、今もまだ、大きな問題が残り続けているのが現状です。WELQ騒動からまだ半年と見るか、もう半年と見るか。私は“もう半年”というべきだと思っています」

ユーザーは「自衛」するしかない。メディアに求められる役割は「Googleという新しい権力の監視」と辻氏。

Googleも苦しむ中、私たちはどのように情報に接すればよいのか。

その手がかりは、例えば日本インターネット医療協議会(JIMA)が公開する「インターネット上の医療情報の利用の手引き」にある。

1 情報提供の主体が明確なサイトの情報を利用する
2 営利性のない情報を利用する
3 客観的な裏付けがある科学的な情報を利用する
4 公共の医療機関、公的研究機関により提供される医療情報を主に利用する
5 常に新しい情報を利用する
6 複数の情報源を比較検討する
7 情報の利用は自己責任が原則
8 疑問があれば、専門家のアドバイスを求める
9 情報利用の結果を冷静に評価する
10 トラブルに遭った時は、専門家に相談する

(「インターネット上の医療情報の利用の手引き」から抜粋)

辻氏は言う。

「残念ながら、検索上位に表示されたサイトだからといって、信頼性が高いわけではありません。健康・医療情報はネットの全検索結果の5%を占めます。当然そこにはお金が集まり、悪質なことをする人もいる。何かおかしいと感じたら、医師などの専門家に確認したり、身近な人に注意したりすることが必要です」

その上で、メディアの役割についてもこう指摘した。

「私は、Googleは素晴らしい会社だと思っています。しかし、万能ではありません。報道の役割は権力の監視と言われますが、Googleもまたこの時代の一種の権力として、報道が監視しなければいけないのではないでしょうか」


【お願い】

BuzzFeed Newsは、インターネット上の医療情報の信頼性について、引き続き取材します。信頼性が不確かだと思われる医療情報を見つけた方は、Twitter( @amanojerk )またはメール( japan-info@buzzfeed.com )などでご連絡ください。