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米大統領選「バイデン氏の不正疑惑で州兵投入」「ウィスコンシン州で投票率200%」は誤り。日本だけで拡散?

大きく広がっているのは、「ウィスコンシン州でバイデン氏の得票数が短時間で増え、投票率が200%を超える計算になる」「怪しいので州兵が集計作業に参加した」という情報だ。

開票が続くアメリカ大統領選をめぐり、ネット上で「バイデン氏の不正疑惑」とする情報が拡散している。

大きく広がっているのは、「ウィスコンシン州でバイデン氏の得票数が短時間で増え、投票率が200%を超える計算になる」「怪しいので州兵が集計作業に参加した」という情報だ。

しかしこれは、「誤り」だ。バイデン氏の得票数の伸びは民主党支持層の多い市における不在者投票が集計されたものであり、不正ではない。BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。

「投票率200%」や「州兵の参加」などをめぐる情報は、様々なユーザーがツイートしており、多く広がりを見せている。

たとえば、以下のようなツイートをした人物はフォロワーが12.3万人いるインフルエンサーであり、情報を大きく広げる起点ともなった。

ウィスコンシン州の不正選挙疑惑まとめ。

・短時間で不自然なほどバイデン氏の票が増える。

・一時間あたりの開票数をバイデン氏の得票数が上回り、投票率が200%ぐらいある計算に。

・怪しいので州兵が集計作業に参加。

普通にこれは疑うべき案件では。

そのほかのユーザーも多く、同様の情報をツイートしている。また、まとめサイト「アノニマスポスト」も以下のような記事を掲載した。

【ウィスコンシン州で、明け方の僅か1時間の間に謎の12万票がバイデン側に追加  ウイスコンシン州で200%の投票率が得られたか、突然人口が600万人増えた計算に ミシガン州でも同様の現象〜ネットの反応「グラフの曲線が直角に上がっとるwww」「投票率200% www」】

日本のTwitterでは、一時「投票率200」「投票率100%超え」がトレンド入り。さらに情報が拡散されるきっかけとなった。

鍵になった「ミルウォーキー」

しかし、これらの情報は「誤り」だ。まず、州兵が導入された経緯は「不正疑惑」のためではない。

CNNFOXニュースによると、不在者投票用紙の印刷ミスがあり、機械で読み取ることができる正しい用紙に転記する作業を手伝うため、20人の州兵が動員された。ミスがあった用紙は13500人分と推測されているという。

また、バイデン氏の票が急激に伸びたとも指摘されているが、これも不正ではなく、不在者投票の開票が始まり、その結果が加わったためだ。

拡散しているグラフの出元となっている世論調査サイト「ファイブサーティエイト」では、記者が「疑問が多くツイッターで寄せられている」として、以下のように解説している。

「この奇妙なウィスコンシン州の伸びは、ミルウォーキーから、17万人の不在者投票が一度に流れ込んだため、起こったことです。悪意はありません。ただ、数えているだけです」

同市は民主党支持者が多いとされる州内最大都市。そもそも不在者投票を利用する人の多くも民主党支持者とされており、結果として多くがバイデン氏に投票していたということで、不正があったわけではない。

米ファクトチェックサイト「ポリティファクト」では、AP通信のデータを紹介。それによると、グラフの伸びがあった時間帯に一度に報告されたウィスコンシン州のバイデン氏の得票は149,520票で、トランプ氏は31,803票。そのほとんどが、ミルウォーキーのものだったという。

なお、この点についてはミルウォーキーの地元紙「ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル」も電子版で「バイデン氏は、圧倒的に民主党票が多かったミルウォーキー約17万人の不在者投票が報告された早朝、トランプ氏を追い抜いた」と伝えている。不正があった、という現地報道は一切ない。

現地の選挙委員会もツイート

また、「投票率が200%」という情報も誤りだ。これについても、根拠となるような公的な情報、現地報道は一切ない。

「有権者数より多い得票数が投じられた」とする同様の情報はアメリカでも広がっており、ウィスコンシン州の選挙委員会は日本時間の5日午前2時すぎに「登録有権者よりも多くの投票があることはあり得ません」とツイートしている。

なお、アメリカの場合、投票するにはまず、自らの意思で有権者登録する必要がある。その方法と登録期間は州によって異なるが、ウイスコンシン州の場合、投票日当日でも、有権者登録をしてそのまま投票できる。

最新の登録有権者数は11月1日付。当日も有権者登録を受け付けるため、実際の登録有権者数は増えることになる。最終的なとりまとめが終わるまで、数字は見かけ上、整わないことにも留意が必要だ。

いずれにせよ、先述の通り、票の伸びは不在者投票のカウントであるため、何か不正があったというわけではない。

「投票率200%」は日本だけで拡散?

そもそもこの「投票率200%」の情報の初出は、不在者投票の伸びを「不正」と疑ったアメリカのTwitterユーザーが日本時間の午後8時43分に述べていたものとみられる。

ツイートは、午後9時すぎから日本のネット掲示板「5ちゃんねる」で話題となり、また同じころからTwitterでも同様の情報が拡散。午後10時半ごろには「投票率200」がトレンド入りした。

情報をなかでも広げたのは、冒頭に記したインフルエンサーのツイート(午後10時19分)や、まとめサイト「アノニマスポスト」の記事(午後11時9分)などだ。

インフルエンサーのツイートは一時数千リツイートされるなど広がりを見せたが、いまはツイッター社が「選挙や他の市民行事への参加方法について誤解を招いている可能性があります」として表示を規制している。

その後の「アノニマスポスト」の記事もやはり7500以上リツイートされるなどし、SNS上で1万4千近くシェアされている。計測ツール「BuzzSumo」で調べたところ、これはネット上にアップされた「バイデン」という単語が含まれる記事のうち、過去1年間で3番目の拡散となっている。

「投票率200%を超える計算になる不正があり州兵が集計作業に参加した」という情報は、それぞれ広がっていた様々な誤情報が合わさってできた言説だといえる。

なかでも「投票率200%」がここまでの広がりを見せているのは、日本だけのようだ。選挙をめぐっては、様々な誤情報や不正確な情報が飛び交う。注意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知、参考にしました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

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